高野彰さん
"演奏の場と暮らしがひとつに ミュージション開発ストーリー"
ミュージション建築事業部
24時間楽器演奏が可能な防音マンション「ミュージション」。高い防音性能と快適な住空間を持つ演奏する人なら気になるはずのこのマンションは、一体どんな風につくられているのでしょう? 第5回は、リブラン建築事業部の高野が登場。2018年10月に完成したばかりの「ミュージション新代田」で、この物件が完成するまでの道のりを聞きました。
失敗を重ねて到達した「D-85」

編集部ミュージションの建築に携わっている高野さんに、聞きたいことがたくさんあって今日は来ました。ミュージションと言えば、高い防音性能が評判ですよね。でも、実際にどうやってつくられているのか知らない人も案外多いと思うんです。
高野僕がリブランに入社したのは2004年で、ミュージションに関わるようになったのは2006年から。他の建設会社からリブランに転職して来て、入社して数年は現場の施工管理を任されていました。今は防音工事の監修を任されています。
編集部2000年に「ミュージション川越」が完成して、この新代田を合わせると15棟目ですね。これまでの道のりはいかがでした?
高野とにかく工事が大変ですね(笑)。ミュージションは普通のマンションと違って防音仕様なので、ひと部屋にかかる工期が2週間ほど長くなります。しかも、遮音性能の測定は建物の完成後でないと出来ない。もし音漏れがあったら、部分的なものだとしても壊して原因を突き止めないといけない。だから、最後まで気が抜けないですよ。
編集部D-65を目標にスタートした遮音性能も、今では全戸D-75を確保しているんですね。
高野D-75とは、音圧レベルを75〜80dB(デシベル)下げる遮音性能のこと。たとえばピアノの平均音圧レベル95dBの場合、隣室からは20~25dBとささやき声程度にしか聞こえません。
編集部遮音性能がD-85に達している部屋も一部あったとか?
高野ただ、ミュージションは測定した結果のなかで一番低い性能を最終的な物件の性能として公開しています。最近では「ミュージション門前仲町」のように、全戸D-80~D-85を確保している物件も出てきました。測定はサントリーホールなどを監修されている音響コンサルタントの永田音響設計さんにお願いしているのですが、必ずミュージションのスタッフも立ち会います。一日がかりでとても地道な作業ですが、こうした小さなチェックもしっかり重ねて、ミュージションは生まれています。
ハードだけでなく、音楽のある暮らしをつくる
編集部ミュージションは住空間にもこだわっていますよね。
高野他の防音マンションでは、冷蔵庫を置くスペースを削って部屋の広さを確保したり、遮音性能を高めるために窓を三重にするところもあるそうですが、リブランはもともと「住まいに『思想』を提案する」という理念を掲げている会社です。だから、防音マンションであっても快適な空間づくりを心掛けています。
編集部たとえ演奏が可能でも、暮らしにくい家はちょっとね……。
高野僕たちは“防音工事屋さん”ではないので、音を聞こえなくするだけでは足りません。プロの演奏家から趣味を満喫したい人まで、さまざまな人が求める暮らしと演奏と創作の場がひとつになった理想の空間をつくるスペシャリストでありたい。だから、名前もミュージックとマンションで「ミュージション」なんです。

編集部この部屋も、広々としていますね。
高野「家族で暮らしたい」という声が多かったので、2LDKもつくりました。新代田と聞くと耳馴染みの無い方もいらっしゃるかもしれませんが、実は下北沢から徒歩9分とアクセスも良い。しかも、下北沢と言えばライブハウスがたくさんある“音楽のまち”ですよね。このミュージションのオーナーさんも音楽一家で、ご自身も完成を心待ちにしていらっしゃったんです。

編集部オーナーさん自身も音楽好きだからこそ、「音楽を楽しむ住まい」を提供できることが嬉しいのかもしれないですね。
高野毎日のように現場に来て、「楽しみにしてるよ!」と声をかけてくれましたね。その姿を見て、私たちも「良い物件をつくろう!」と気合いが入りました。
目標はドラムを叩ける環境の実現
高野とはいえ、まだまだやりたいことはたくさんあって。今後は低音の遮音性能を上げてドラムの演奏を可能にしたい。
編集部同じ遮音性能でも、低音の方が抜けやすいんですね。
高野コンクリートを厚くして遮音する方法もありますが、そうすると賃料が上がって入居者の負担が増えてしまう。だから、地下にライブハウスをつくるか、一階だけドラム可能にするかと、知恵を絞っているところです。色々な部材や素材を試したり、視察に行って自分たちが納得できるレベルの防音性能を目指しています。

戸口今ミュージションで許可を出しているのは電子ドラムまでですね。営業部にもドラマーがいるので、「ドラムを叩ける部屋をつくるぞ!」と言っています。
高野やっぱり「音」は目に見えないものだから難しい。壁の汚れや床の傷などは修復しやすいですが、音漏れは塞ぐだけで「もう大丈夫!」とはなりません。最近はスピーカーの性能も向上しているので、日々変化する生き物と向き合っているような感覚です。でも、そこが一番苦労するところであり、価値を生む面白さでもある。当たり前のことですけど、お客さまに嘘はつけませんから。
目に見えない「音」と向き合って実現したミュージションの遮音性能。その背景には、数々の失敗と挑戦を繰り返しながら、音楽のある快適なライフスタイルの提供を目指して奔走するリブランスタッフたちの姿がありました。
企画:株式会社リブランマインド
⽂:原⼭幸恵(tarakusa)
写真:⼩賀康⼦(提供写真以外すべて)